2011年2月2日水曜日
NAVERまとめが考えるキュレーション(1)
ネイバージャパン
サービス企画室室長
島村武志のコラムより抜粋
WEB上における「キュレーション」とは何か、を明確に定義することは現段階ではかなり難しい。
我々の役割はWEBサービスを生み、育てることなので、言葉で語るよりも、
サービスの結果で表したいと考えているが、
最近の現状を見ると「キュレーション」という言葉が、やや独り歩きしているように思う。
そこで、今回、現時点での我々NAVERがどのように「キュレーション」を捉えているかについて
言葉にする努力をしてみたい。
1度にすべてを語りつくすことは難しいテーマなので、まずは概論から。
今後、皆さんからのご意見や、議論の内容などをふまえて、更新していければと考えている。
皆さんがキュレーションについて考えるきっかけの一つとなれば幸いだ。
■はじめに
WEB上におけるキュレーションの必要性は情報爆発で探しにくい、という文脈から生まれている。
であれば、少なくとも、キュレーションはWEBで情報やコンテンツが「今よりも探しやすくなる方向」に
進まなければ意味がない。
これは、思いがけない情報との出会い(セレンディピティ)だけでなく、知りたいと思った情報を
簡単に、わかりやすく見つけることができる、ということにおいてもだ。
■過去にもあったキュレーション
WEB上でのキュレーションという行為自体は以前から行われていたことだ。
例えばYahooトピックス。
ニュースの海から情報を取捨し、わかりやすくまとめて(コンテクストを与えて)共有している。
つまりこれはキュレーション的な行為だ。
WEBに限らず、テレビのニュース番組でも、情報誌、専門誌でもそうだ。
情報を収集し、そのテーマや目的に応じて取捨し、わかりやすくまとめて共有する。
ただ、これまで、WEBでのキュレーションは、WEB上に情報が増えることに反して
マス媒体や、専門的媒体、一部の個人ブログに限られてきた。
たとえば、おいしいラーメン、というテーマに対して、
非常に多くのお店の中から取捨選択し、それを共有する場合を考えてみよう。
WEBの登場以前、かつてのマスメディアの情報が全て、という時代なら、
「このラーメン屋がおいしい、話題だ」というマスメディアが取捨選択した情報を受け、
テレビで紹介されていた、雑誌に掲載されていた、という信頼感によって、
その情報を消費することで十分だったかもしれない
ただ、WEBが生まれ、情報を発信するコストが下がることにより、
ラーメンに関する情報は飛躍的に増え、
これに呼応するように、個々の好みも、志向も多様化しつづけている。
塩ラーメンならここだけど、醤油ならこっち。
ローカロリー志向なら、このラーメン屋、
女子だけも入れるラーメン屋は?
等々。
好みや志向、状況、立場が違えば“おいしい”の基準も、“話題”の基準もまったく違う。
ラーメンひとつを簡単に切り取ってもこうだ。人々が関心を持つ事柄はそれこそ無限にある。
そう、必要な情報は分野、興味、関心、イシューの内容、個々、状況、観点などによってすべて異なるのだ。
限られた媒体が取捨選別し共有する情報を見るだけでは、自分に合った情報を探すことにも、
思いがけない出会いを期待するにも、不十分さを感じる段階に入っているのだ。
■今、注目を集めるキュレーション
ブログが一般化するに伴い、キュレーション行為が増えなかったわけではない。
キュレーションという行為はもちろん、ブログ上でも可能だ。
ただ、ブログは一般に、個人の意見や感想、日記を書く場所として認知され、
キュレーションツールとしては注目されていなかった面がある。
twitterのようなマイクロブログの誕生は、ブログ以上に気軽で簡易な発言を可能にし、
同時に、気になるURLをポイっと投げ込むだけでも、
それが一つの情報発信として容易に成立することを可能にした。
そして、投稿されたURLは、マイクロブログ上に築かれたネットワーク(ソーシャルグラフ)を通して、
見ておいてよかったと思う情報に出会う・思いがけない情報に出会う、という、
これまでになかった体験を増大させ、それがRT(リツィート)で一気に拡散していく様を示した。
この衝撃的な経験が、多くの人々が情報の取捨選別に関わる事の意味を気づかせる契機となった。
キュレーションが今、盛り上がりを見せている背景はこれだ。
■検索とキュレーション
知りたいことを探す時、ほとんどの人がGoogleを始めとしたキーワード検索を使う。
検索エンジンとキュレーションは異なるものだが、構造的にみれば、その違いは、
情報を「クエリ(キーワード)」というユーザーの要請に応じて紹介するか(検索)、
自発的に紹介するか(キュレーション)でしかない。
旧来の検索エンジンによる情報の紹介は、
検索ニーズが無限に多様であるにもかかわらず、
同じ一つの基準にそってのみ行われる。
単純化すると、被リンクの数とドメインの重要度を基本にした、
あくまで単一のアルゴリズムだ。
検索ワードを切り替えたり、複数の言葉を入れることで、
紹介される情報は変化するが、それは、絞込みの範囲を変えているだけ。
分野、イシューの内容、個々の立場、状況、観点にかかわらず、
選び取られ紹介される基準は一つだ。
極論をいえば、Googleの検索結果の10ページ以内に表示されない情報、
コンテンツはWEBに存在しないのと同義である。
ひょっとしたら、その先に、ドメインが新しく、被リンクは少ないものの、
探している人の背景や状況により適した情報があるかもしれないのに。
新しい情報はWEB上に増え続けているのに。
こうして考えてみると、どちらか一方ということではないが
旧来の検索的な情報フィルタリングよりも、マイクロブログなどによるソーシャル的情報フィルタリングのほうが、
今後の情報と人とのあり方の中心になってくるのではないかという考え方が広まってきているのは、
至極当然なのかもしれない。
■マイクロブログとキュレーション
マイクロブログによるソーシャルネットが
WEB上での人と情報の出会いの形を大きく変えていくことは明らかだ。
一方で、人がWEBで情報を探すもっとも基本的な形態は検索だ。
繰り返しになるが、キュレーションは今よりもWEBで情報やコンテンツが探しやすくなる方向に進まなければ意味がない。
マイクロブログでの情報共有は、企業系アカウントや特定テーマに特化したアカウントを別にすれば、
個人を軸にし、断片化されている。
たとえば、あるB級グルメの情報を発信した人がいて、その人をフォローしたとする。
でも、その人はB級グルメ以外の情報、つまり必要ではない情報も多く発信する。
もちろんその人をフォローしたことで、その人が発信したB級グルメ以外の情報に共感したり、
思いがけない情報を与えてくれたりすることはある。
その一方で、B級グルメに関しては、他の人も、他の場所で、断片的に発信し続けているのに
出会うことができない。
■残る課題
興味のある事柄、知りたい事柄、自分が必要としている情報をもっと探索してみようと思ったときに、
現在の、マイクロブログによる情報の伝播だけでは解決できない場合も多い。
これを解決するには、個人の軸だけでなく、分野や興味、関心、イシュー、といった
『テーマ』よって整理されるプロセスが必要だ。
そして、ただ集められるだけでなく、『テーマ』に対してそれぞれの基準で(私はこれがコンテクストだと考えている)、
取捨選択され配列されるべきだ。
また、『テーマ』が同一でも、個々人の観点、状況によって別々のコンテクストがある。
情報を取捨選択し、コンテクストを与え共有する人、
つまりキュレーターが限定されればされるほど、自分の状況により適した情報、必要な情報は探しづらくなる。
だからこそ、キュレーター(より正しく言えば、『テーマ』に対し、情報を取捨選択し、コンテクストを与え共有する人)が、
もっともっと数多く生まれる必要がある。
■NAVERが描くキュレーションが変える未来
そうなれば、人が情報を探すプロセスはこういう形になるだろう。
まず、『テーマ』を指定する(それはカテゴリ、タグ、キーワード、なんでもいい)
↓
それに関連する複数のコンテクストが示される。
↓
その中で「自分が共感できるコンテクスト」を選択し、そこにまとめられた情報を活用する。
コンテクストは複数存在する為、別のコンテクストには、別の基準で情報が取捨されている。
これが、同一のテーマであっても取捨される情報のゆらぎを生み、思いがけない
発見の可能性を広げる。
私たちが目指す世界はこのようなものだ。
そして、そのために、キュレーションのハードルを下げることが私たちの役目だ。
もっと簡単に、もっと手軽に、もっと便利な機能、ツール、サービスを提供する。
それによって、キュレーターが本来行うべき情報の収集、選別、意味づけに時間を多く割けるように。
ホームページの時代からブログが生まれ、さらにブログから、マイクロブログが生まれ、
個人の情報発信のハードルがさがってきたように。
■キュレーションをとりまくプレーヤーたち
最後に、キュレーションという言葉に関連して取り上げられるサービス群について
NAVERまとめとのポジションの差異を中心に勝手ながら簡単に整理してみたい。
▼ブログ系
先にも述べたように、ブログでもキュレーションは可能である。
ただ、そのように使うためには、少々手間が多い。
どちらかというと、情報やコンテンツを紹介する、というよりも
文章を書くことに向いたプラットフォームだ。
▼マイクロブログ、SNS系(Twitter、Facebook等)
マイクロブログでも同じく、キュレーションは可能である。
ただ、ブログより情報の単位が小さく断片化が進んでいるので、
情報をまとめるには、ブログよりも向いていない。
また、情報発信というよりコミュニケーションツールの側面が大きいので、
ブログ以上に個人軸が主体だ。
一方で、コミュニケーションツールであるがゆえにネットワークをもち、
その伝播力が大きいので、引き続き、キュレーションも含めた
情報流通のプラットフォームとして拡大するだろう。
▼ソーシャルブックマーク系(はてなブックマーク等)
ソーシャルブックマークもキュレーション的ではあるが、
見つけた情報の個人的なストックの側面が強く、その共有をあまり意識していない。
そして、個々の情報(URL)に対してのみ評価、意味づけを行うので、
全体として見た場合に、どのURLが人気があるか、といった概況はわかるが、
テーマに対して、必要な文脈にそって情報を選び出すことは難しい。
また、扱える情報の単位がURLのみである。
▼ディレクトリサービス系(Yahoo!ディレクトリ等)
ディレクトリサービスはキュレーションのごく原初的な形態だ。
ただ、コンテクス トがカテゴリ、という一種類に限定され、
扱える情報はURLのみであり、情報の取捨選択に関わる人数は非常に限定的だ。
▼ガイドサイト系(All About等)
All Aboutは、現在は記事を書く人の集まりだが、以前はリンク集を中心に
キュレーション 的活動も活発だった。ただ、ガイドする人はテーマに対して1人に限定される点が
NAVERまとめとの差異だ。
▼ウィキペディア
ウィキペディアも情報を拾い集めて整理し共有するという意味では、
共同編集型のキュレーションだと思うが、
目指すものが百科事典なので、主観が排除され客観的事実のみ扱う点が特徴。
定義があいまいであったり、主観的なコンテキストは扱うことができない。
▼2ちゃんねるまとめサイト系
文字通り、2ちゃんねるで起きたこと、話題になったことを紹介するもので、
集めてくる、というよりは、会話の中で必要な部分だけを抜き出すようなものだ。
文字通り、2ちゃんねるの範囲に限定されるし、
まとめられるジャンルにも偏りがあり、ニュース、ネタ系
など、娯楽性が高いものが中心となっている。
2ちゃんねるの中には実用的な情報も多く存在するが、
それらがまとめられているケースは少ない。
▼Togetter、nanapi
本日20時からnanapi運営の古川健介さん(@kensuu)、Togetter運営の吉田俊明さん(@yositosi)と一緒に
USTREAMでキュレーション座談会を行うので、私の考えは、この席にて述べさせていただきたいと思う。
>次回へ続
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